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最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)247号 判決 1948年11月10日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人作田高太郎及び西村真人の上告趣意第二点について。

刑法第六條は「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其ノ軽キモノヲ適用ス」と定めている。從って、同條が適用されるには、犯罪の制裁である刑が犯罪時と裁判時の中間において法令の改正によって変更され、その間に軽重の差を生じたことを前提としている。そして、犯罪の制裁である刑の変更は、刑罰法令の各本條で定めている刑が改正されるときに生ずるのが典型的な場合であるが、なお刑法の総則等に規定する刑の加重減軽に関する規定が改正された結果、刑罰法令の各本條に定める刑が影響を受ける場合にも生ずるであろう。いずれにしても、特定の犯罪を処罰する刑そのものに変更を生ずるのでなければならない。また刑の軽重は刑法第一〇條によって刑の種類又は量の変更を標準として判断されるのである。されば、刑法第六條は特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量が法令の改正によって犯罪時と裁判時とにおいて差異を生じた場合でなければ適用されない規定である。しかるに、本件で問題となっている刑の執行猶予の條件に関する規定の変更は、特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量を変更するものではないから、刑法第六條の刑の変更に当らない。刑の執行猶予はその性質からいえば、刑の執行を一時猶予するというだけのものである。(刑法第二七條の効果は同條所定の要件が新に具わることにより同條に從って新に発生するものである)つまり刑の執行のしかたであって刑そのものの内容ではない。それだから、法律も刑と刑の執行猶予とを全然別に取扱い各別の章に規定しており又刑の軽重の比較方法を定めた刑法第一〇條も執行猶予には一言も触れていないのである。そこで、刑の執行猶予の條件に関する規定が改正された場合に新旧いずれの規定を適用すべきかは刑法第六條によって決まるものではなく、改正規定の立法趣旨によって判断しなければならない問題となる。そして刑法の一部を改正する法律(昭和二十二年法律第一二四号)附則第四項の規定の反面解釈によると、刑法第二五條の改正規定は同法施行前の行爲についても適用される趣旨が窺われるので、事実審が判決で刑の言渡をする場合に刑の執行猶予をも同時に言渡すか否かの判断をする條件については新規定によるべきこと当然である。しかし、原審が本件について刑を言渡した判決当時においては改正規定はまだ施行されていなかったのであるから新規定を適用する余地はまったくなく、この点について原判決にはもとより違法はない。上告審では原審の判決後に刑の廃止又は大赦があったときには原判決を破毀して免訴の判決をすべきであり、刑の変更があったときには原判決を破毀して新たに刑を言渡すべきであるが本件のように刑の執行猶予の條件に関する規定が改正された場合には如何にすべきであろうか原審の判決後に刑の廃止若は変更又は大赦があったときには事後の事情によって前審の判決が法令に違反する場合と同様な結果となるから原判決を破毀するのである。しかるに、刑の執行猶予の條件に関する規定が改正された場合には、前審の判決は法令に違反する場合と同樣な結果を生じないので前記の場合に準ずることはできない。そして、上告審は前記の場合を除いては原判決に違法がない限りこれを破毀して自判することはできず、從って自ら刑を言渡し得ないのであるから原判決に違法のない本件については、上告審たる当裁判所は刑の執行猶予の條件に関する改正規定を適用する余地のないことは亦当然である。されば論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により、刑事訴訟法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官真野毅及び同齋藤悠輔を除く外、その他の裁判官の一致した意見によるものである。

本件に関する裁判官真野毅の反対意見は、次のとおりである。

わたくしは、本件を破毀すべきものと考える。刑法には、罪刑法定主義が行われ、刑法不遡及の原則が適用せられる。すなわち、犯罪は、犯罪行爲当時に現存する刑罰法規によってのみ処罰せらるべきものであって、犯罪時の後に法令の改正があって裁判時に現行されているとしても、かかる事後法によって処断することは許されないのである。この一大鉄則に対する例外として、刑法第六條は「犯罪後の法律に因り刑の変更ありたるときは、其軽きものを適用す」と定め、事後法の遡及効をも認めている。そして、刑訴第四一五條は「判決ありたる後刑の変更ありたるときは、之を上告の理由と爲すことを得」と定め、同第四二四條においては、判決があった後における刑の変更については、職権をもって調査をなすことを得る旨を規定している(以下刑の廃止及び大赦については触れない)。すなわち、判決後の刑の変更は、上告の理由從って破毀の理由となり得ると共に、職権調査による破毀の理由ともなり得る訳である。そこで、昭和二二年法律第一二四号による刑法の一部改正に当り、刑法第二五條の執行猶予言渡の要件たる刑の範囲が「二年以下の懲役又は禁錮」から「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五千円以下の罰金」に改められたことが、前述の「刑の変更」に該当するか否かが本件における問題の焦点となるのである。前述の刑法及び刑事訴訟法の一連の規定は、刑法の根本原則に関連する重要なものであるが、従來裁判の実際においては、あまり論議せられる程の問題を提供することがなかった。一八七一年ドイツ旧刑法第二條第二項は、「犯罪行爲の時からその判決時までに法律が変更したときは、最も寛大な法律が適用せらるべきである」と定め、同一九〇九年予備草案第二條第二項は、「法律が裁判に至るまでに変更したときは、行爲者に対して最も有利なる法律を適用する」と定め、現行の一九三五年ナチス刑法第二條a第二項には「裁判時において行爲時におけるよりも寛大な法律が存するときは、一層寛大な法律を適用することを得る」と規定している。かくドイツ法制の下においては、最も寛大な法律(ダス・ゲミルデステ・ゲゼッツ)、最も有利な法律(ダス・ギュンステイヒステ・ゲゼッツ)又は一層寛大な法律(ダス・ミルデレ・ゲゼッツ)というのであるから、その適用の範囲は、当然相当廣いのであり、又この規定は事実審裁判官に対してのみ適用があると解せられている。これに反して、わが刑法第六條は「刑の変更ありたるとき」というのであり、そして刑事訴訟法によって上告審裁判官に対しても適用があることになることになるのであるからドイツ刑法と同樣な廣い解釈適用を認める訳にはいかない。すなわち、刑の変更による軽い法律というのとただ寛大な法律又は有利な法律というのとでは、前者の方がその適用の範囲が狹かるべきことは、自明であると言い得る。又上告審にも適用がありとする制度を採る以上、破毀の場合には更に事実審を重ねる必要がある点を考えると、利害得失の價値判断からしてもドイツ刑法の場合に比しその適用をむしろ適当に狹く解するのを妥当とする。しかるに、わが国の從來の学説には、ドイツ刑法の解釈にならって動もすれば廣きに過ぐる適用を認めているものがあるが、それは、彼我の法制が互に似ていてしかも相異る点が厳存することを、看過したのに基く誤った見解であると言わなければならぬ。

そこで、刑法第六條の正しい適用の範囲としては、刑の変更に関する法令の改廃があった場合に限定さるべきものであって、これを超えて廣く有利な法令の変更があったすべての場合を含むものではないと解するを妥当と考える。先ず、(一)刑罰法規の各本條で定めている法定刑そのものが、変更せられた場合を含むと解すべきことは、おそらく何人も異議なきところである。次に、(二)刑法総則等にある刑の加重減免に関する規定が改正せられ処断刑に変更があった場合をも含むと解すべきである。なぜならば、処断刑の変更もまた法令の改正によって当然一般的に生ずる刑の変更に当るからである。例えば、從來の数罪が一罪として処罰せらるる規定が設けられるときは、一般的に刑が軽く変更せられることになり、逆に從來の一罪が数罪として処罰せられる法令の改正があるときは、一般的に刑が重く変更せられることになる。(先頃の刑法の一部改正で連続犯の刑法第五五條は廃止せられた結果、從來の連続犯一罪は併合罪数罪として処罰せられることとなったから、処断刑は重く変更せられたことになる。それ故、これに刑法第六條を適用すれば、軽い旧法の適用があるべき訳である。前記刑法の一部改正法の附則において、「この法律施行前の行爲については、刑法第五五條の改正規定にかかわらず、なお從前の例による」と定めているのは、刑法第六條適用の当然の結果を念のため便宜上明確にしたものである。)さて、(三)本件執行猶予規定の改正は、「刑の変更」に該当するか否かの問題について考うべき順序となった(この点に関しては、上告審についての経過規定を設けるのが、賢明であったと思う)。「刑」とは、犯罪に対して科せられる制裁そのものであると見れば、固有の意義において「刑の変更」とは、刑の種類又は量に関する変更のみを意味し、本件のごとき刑の執行猶予の要件に関する変更を含まないと解することができよう。けだし、刑の執行猶予は、観念的に見れば性質上刑の内容として刑に内在するものではなくして、ただ刑の執行を一時猶予するに過ぎないものであるからである。しかし、これは全く形式的な物の考え方である。執行猶予を観念的に見ないで現実の制度として考えるときにおいて、それは單に刑の執行を一時延期するというばかりでなく、猶予期間を無事に経過した曉には刑の言渡の効力が失われるという制度であるという実態をそのまま端的に把握しなければならぬはずである。すなわち、実質的には刑の執行猶予は、科刑上刑の量以上に重視すべき大きな價値があるし、又現に実際においても、裁判官、檢察官、弁護人、被告人及びその他の関係者にとって、單なる刑の量などと較べものにならぬ程に科刑上重要視されていることは、今日ではむしろわれわれの動かぬ常識となっている。さらに、法制の上でも刑事訴訟法第四一二條に「刑の量定甚しく不当」という中には、刑の種類又は量の盛り方の不当な場合ばかりでなく、刑の執行猶予をつけなかった場合をも含むこと並びに一審判決で言渡された執行猶予を控訴審判決で取り除くことは、同第四〇三條にいわゆる重い刑の変更となることは、すでに判例その他において一般に廣く承認せられているところである。又刑の執行猶予を求める上告理由をはねる判決において「論旨は結局量刑不当を非難するに帰着する」という風な手法が常套的に用いられている事例は、世人の知るが如く枚挙にいとまがない程である。されば、これらの諸点から観察すれば、本件執行猶予規定の改正は「刑の変更」に該当するものと言うを相当とする。さらに又、「刑の変更」と見るについて爭のない刑罰法規各本條の法定刑の変更の場合を例にとって、別の観点から問題を考察してみよう。判決後の刑の変更を上告理由及び破毀理由としているのは、判決後に各本條の法定刑の変更があった結果、原判決で言渡された宣告刑が新法による新法定刑の限度を超えた不適法のものである場合を含むのは勿論であるが、かかる場合だけでなく新法定刑の限度内で適法のものである場合をも含むことは明らかである。例えば、詐欺罪で八年の刑が言渡された後に、同罪の法定刑が長期一〇年から長期六年に変更された場合は、新法の下では不適法となるから、原判決が破毀せらるべきはもとより当然であると共に、五年の刑が言渡された後に同樣の改正があったときは、新法の下でも不適法ではないが、さらに新法に從って量刑をし直すために破毀せらるべきものと言わなければならぬ。すなわち、前者の場合は、刑の変更が必然的に原判決の宣告刑に影響を及ぼす場合であるが、後者の場合は、必然的にではなくただ自由裁量によって原判決の刑に影響を及ぼす可能性を生ずる場合である。そこで、本件執行猶予規定の改正によって、原判決で三年の体刑を言渡された者は、新法の下でも必然的に刑の執行猶予を受けるというのではないが、破毀差戻の後事実審の自由裁量によって原判決の刑に影響を及ぼし刑の執行猶予を受け得るに至る可能性を生ずることは明らかである。それ故、かかる場合をも「刑の変更」と認めることは、各本條の法定刑の変更の場合と対比して同じ根拠に立ち均衡を得たものということができる。(多数意見は、後段において「原審の判決後に刑の変更があったときには事後の事情によって前審の判決が法令に違反する場合と同樣な結果となるから原判決を破毀するのである。しかるに、刑の執行猶予の條件に関する規定が改正された場合には、前審の判決は法令に違反する場合と同樣な結果を生じないので前記の場合に準ずることはできない」と述べているが、その意味は甚だ不明確で理解し難いものがある。若しそれが、判決後に刑の変更があったときには法令の改正という事後の事情によって原判決の刑が、新法の下においては不適法となるから、原判決を破毀するという意義であるならば、前掲設例の後者の場合には破毀ができないことになり、これは明白に不当な見解であると言わなければならぬ。又若し、前掲設例の後者の場合にも破毀ができることを認めている趣旨だとすれば、その表現が極めて不完全であるばかりでなく、自由裁量によって原判決の刑に影響を及ぼす可能性を生ずることを破毀の根拠として承認しなければならぬこととなり、この同じ根拠は執行猶予の要件に関する規定が改正された場合にも存在することは前述のとおりである。それ故、この点において両者を区別し差別待遇をすべき理由は、跡方もなく雲散霧消すべき筈である。)

本件原審において被告は、昭和二二年一〇月二二日懲役三年に処せられたが、その後刑法一部の改正で三年の体刑に対しても執行猶予の言渡を受ける可能性が生じたから、破毀差戻をなすを相当とする。

弁護人作田高太郎及び同西村真人の上告趣意第二点についての裁判官齋藤悠輔の補足意見は次のとおりである。

刑法第六條にいわゆる「刑ノ変更」とは、予め法律を以て規定した「刑罰」の変更すなわち犯罪者の行爲規範の違反に対し科すべきものと予定した法律効果たる「制裁」の変更を意味し、廣く「刑法」の変更又は刑の適用に関する一切の「裁判規範」の変更換言すれば刑の適用につき、裁判機関に対し命じた行爲規範を定めた一切の法規の変更を指すものではないと解すべきである。蓋し、同條は、実体刑法不遡及の原則に対し一大例外を認めたものであるから、その立法趣旨に照しこれを狹く厳格に解すべきは当然であり、そして、同條はその明文上明らかなように、單に「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキハ其ノ軽キモノヲ適用ス」と規定したにとどまり或る立法例のように廣く実体刑法規定の変更あったときは、犯罪者に最も有利な結果を生ずべき一切の規定(刑罰に関すると否と刑の変更に関すると否とを問わない)を適用する趣旨の立法ではないからである。すなわち同條は、犯罪者の犯罪行爲成立(即時犯)又は完結(継続犯)後判決言渡までの間においてその犯罪者の行爲規範の違反に対し予定した法律効果を規定した法規に変更を生じたときは、罪刑法定主義の建前からすれば、本來行爲当時の刑罰法規を適用すべきものであるのに、犯罪者に対する立法者の恩恵的な法律観念の変化に伴う最も寛大な立法意思の表現である最も軽い法律効果を規定した法規を適用すべきものとして、旧法の外特に新法又は中間法の遡及効を認めたものに過ぎないのである。然るに、いわゆる裁判規範を規定した法規は、犯罪者に対する規範を定めた法規ではなく、裁判機関の爲すべき行爲の準則法規に外ならないから、裁判機関の爲すべき行爲当時における法規に從うべく從って、或る犯罪後かゝる法規の変更があっても常に裁判機関の爲すべき行爲当時の新法に準拠すべく、特に別段の定のない限り、犯罪者に利益な結果を生ずる旧法又は中間法等の既に失効した法規に從うべき理由がない。そして同條は、前述のごとく、單にその適用を法律効果を規定した法規に限り、一切の刑法規定に及ばないのは勿論、刑の適用又は訴訟手続に関する、裁判規範の変更については何等別段の定をしていないのである。されば、同條に「犯罪後ノ法律ニ因リ刑ノ変更アリタルトキ」とは犯罪行爲成立又は完結後公布実施された法律に因り、その犯行以前予めその犯罪行爲に対する制裁として規定した当該刑罰法規各本條の法定刑に変更のあったとき換言すればその犯罪行爲に対し予定した制裁の種類又は分量が法律規定の改正の結果或は重く或は軽く変更を來した場合に限ると解すべく、裁判機関が当該法定刑を修正すべき刑罰の加重減軽に関する刑法総則規定(刑法第五四條第五五條をも含む但し後者については刑法の一部を改正する法律の附則において別段の定をしている)若しくは訴訟手続上免訴又は免刑の判決(刑訴第三六三條第二号、第三五九條)を爲すべき事由たる刑の廃止又は免除を規定した刑法規定の変更を包含しないものといわねばならぬ。

そして刑の執行猶予に関する刑法総則規定は、法定刑の変更若しくはこれが修正に関する規定ではなく、既に修正を加えられ具体的に確定した一定の宣告刑の執行を一定の期間猶予すべきか否か又はその猶予の取消を爲すべきか否かに関する條件を規定したものであり、たゞ同法第二七條において一定の場合刑の言渡をしてその効力を失わしめる恩赦的な効果を規定しているに過ぎないものである。そしてこの執行猶予の規定は、もと現行刑法並びに現行刑事訴訟法施行以前の明治三八年法律第七〇号を以て制定せられた單行法律規定であって、刑の変更又は修正に関する規定でないのみならず、元來本案たる刑の言渡についての判決手続規定ではない。ここを以て現行刑法制定の際刑法総則にこれが條件並びに効果に関する実体的規定を取り入れると共にこれが手続並びに経過法として刑法施行法第一四條第五四條乃至第五八條の規定を設け、更らに旧刑事訴訟法改正の際右刑法施行法の手続規定を廃止すると共にその猶予の取消手続については刑訴第三七四條の決定手続規定を設けその言渡手続については同第三五八條第二項において「刑ノ執行猶予ハ刑ノ言渡ト同時ニ判決ヲ以テ其ノ言渡ヲ爲スヘシ」と規定して本案の判決において刑の言渡を爲すことを條件とし、その言渡に随伴する附随の処分(刑訴第五二三條第二項參照)として判決を以てこれが言渡を爲すべきものとしたのである。されば右立法の沿革からしても刑の執行猶予に関する改正法律は刑法第六條の刑の変更に関する規定に当るものではなく、刑の言渡の附随処分手続に属する裁判規範規定たること明らかである。それ故刑の執行猶予を爲すべきか否か若しくはこれが取消を爲すべきか否かはこれを決定する権限を有する裁判所が現にその決定を爲すべき当時の新法に準拠して爲すべきものといわねばならぬ。そしてそのことは刑法の一部を改正する法律の附則において執行猶予に関する改正規定は、その罰金刑に処せられたことを理由とする取消規定の外これが適用を排除しなかったところからも窺い知ることができるのである。

しかし、上告は、第二審判決又は第一審判決に対し、法令違反を理由とするときに限り、これを爲し得るものであり、從って上告審は、刑訴第四一五條又は同第四一六條第二号所定の場合を除き、第二審判決又は第一審判決の言渡当時における実体法又は手続法の違反を爾後審査する法律審であって原則として自ら刑の言渡をしないものであり、しかも、現行刑事訴訟法においては刑法施行法第五五條第二項「上訴裁判所ハ新ニ執行猶予ノ言渡ヲ爲スコトヲ得」のごとき規定を設けなかったのであるから、上告裁判所は、原判決を破毀して自ら刑の言渡を爲すべき例外の場合でなければ刑の執行猶予を與うべきか否かに関する権限を有しないものといわねばならぬ。

それ故上告審においては右例外の場合の外執行猶予に関する改正新法適用の余地も存しないのである。換言すれば刑の執行猶予を爲すに足る條件の有無並びにこれが猶予を爲すか否かの判定は、刑の言渡を爲す事実審たる原裁判所がその言渡当時の法規に從い独立自由に爲すべき事柄に属する。そして前述のごとく執行猶予は一定の宣告刑の執行に関するもので刑の変更に関するものでないから刑訴第四一五條又は同第四一六條第二号にいわゆる「刑ノ変更」にも当らない、それ故原審判決言渡後における刑の執行猶予の條件に関する刑法規定の改正を理由とする本件上告は、結局原審の自由裁量の非難に帰着し上告適法の理由とならないものである。

裁判官庄野理一は退官につき合議に関與しない。

(裁判長裁判官 三淵忠彦 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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